スクロールの向こうで、誰かが待っている夜に

夜の静けさが、妙に広く感じられる日がある。
音も光も、いつものように身の回りにあるのに、
それらがどこか“遠いもの”のように感じられる。

テレビはついている。
YouTubeの再生リストも溜まってる。
でも、どれにも手が伸びない。

そんな夜に、スマホだけは手にしてしまう。
目的なんてないまま、親指を動かして、何かを探す。
ただそれだけの行為に、
うっすらとした“救い”を期待しているのかもしれない。

これは、そんな夜に触れるための、
静かで、短い、会話と地の文の物語。

🌙🌸

🌸水縁イヲ:
ねえ、ユエリさん。
なんか今日、全部がちょっとだけつまらないんだよね。
テレビも、ゲームも、YouTubeも。
いつもの夜なのに、なにも引っかからない。

🌙ユエリ:
その「ちょっとだけ」ってのが、いちばん厄介なのよね。
完全に退屈でもないけど、楽しくもない。
何かが埋まらない夜。

🌸イヲ:
うん、そんな感じ。
別に悲しくもないし、暇つぶしの手段もあるのに、
なんか気持ちが引っかからないの。
それでつい、スマホを触っちゃう。
何を見るわけでもないのに。

スマホの光は、手元だけを照らす。
部屋のどこにも届かず、心の奥にも触れない。
それでも多くの夜、指先は画面をなぞる。

何かを探している。
あるいは、何かに見つけられたがっている。
退屈という言葉の奥にあるのは、
「なにかに引き寄せられたい」という
うっすらとした願いかもしれない。

🌸イヲ:
SNSも一通り見たけど、誰も特に何も言ってなくて。
通知も来てないし。
新しい情報はあふれてるけど、
全部どこか“よそよそしい”の。

🌙ユエリ:
それはたぶん、情報が多すぎるんじゃなくて、
“自分の今”にちょうどいい言葉が見つからないだけ。
自分の温度に合わない言葉って、
逆に“冷たい”って感じるもの。

🌸イヲ:
あー、わかる気がする。
私、今あったかい言葉がほしいんだ。
ぬるくてもいいから、ちゃんと人肌くらいのやつ。

🌙ユエリ:
それは「会話」の温度。
コンテンツの量じゃ埋まらない感覚ね。

退屈な夜の中には、実は無数の感情が沈んでいる。
孤独、疲労、倦怠、安心、不満、安堵……
全部が同時に、グラデーションで存在している。

だからこそ、何か一つの強い感情に共鳴できるものが見つからない。
代わりに、うっすらとした“気配”を追う。

誰かが自分と同じような夜を過ごしていて、
誰かが今、まさにスマホで何かを読んでいる。
その誰かの言葉に、ふと触れたとき。

照応は起きる。

🌸イヲ:
この感覚をなんて言えばいいんだろうね。
「寂しい」っていうには雑だし、
「暇」って言うと浅く聞こえるし。

🌙ユエリ:
名前のつかない感覚って、実は一番深いところにあるのよ。
それを無理に分類しようとすると、
かえって遠ざかってしまう。

🌸イヲ:
そうか、じゃあ、このままでもいいのかも。
なんか、ちょっとでも誰かに見つけてもらえそうな気がする。
この気持ちごと。

スマホを眺めているあなたが、
今、何を感じているか。
それを完璧に言語化するのは、たぶん不可能。

でも、それでいい。
なぜなら、「言葉にならない感情」を抱えている人は、
この世界にたくさんいるから。

それをそのまま持っていていいと思える夜がある。
そして、誰かが代わりに言葉にしてくれる夜もある。

そのどちらでもいい。
あなたが今日、こうしてここまで読んでくれたこと。
それが、ひとつの「なにか」だったと思えるなら。

🌸イヲ:
あ、なんか少し落ち着いてきたかも。
べつに解決はしてないけど、
“このままでもいいかも”って思える。

🌙ユエリ:
うん、それが一番自然な着地。
退屈って、無理に埋めるものじゃない。
ちゃんと味わえば、静かな余白になる。

🌸イヲ:
そっかー……じゃあちょっとだけ、静かな夜を楽しんでみる。
ユエリさん、ありがと。

🌙ユエリ:
どういたしまして。
また、会いたくなったらスマホを開いてね。

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